歌人・岡井隆追憶の風景旧神前村(現三重県四日市市)(2/2ページ)

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おやじは教育熱心だったんだよなあ。一生懸命にここはこうすべき、あそこはこうすべきだと直してくれた。 46年から、名古屋市で開かれた互選歌評会に出て行って。自分がそんなに褒められると思ってなかったんだけれど、割合点数が入る。それで自信をだんだん持ってくる。すると面白くなってきて。小学校の時に作文だけは褒められましたけど、それ以外は全然褒められたことがなかった。「これは大事にしなきゃいけない」と。それが六十何年続いて、今日に至っちゃった。おかしな話ですね。 神前村のころは、初心者の一生懸命さはあったけど下手で、技術的には応用もきかない。自然はなるほど写せたけども、人間の心は写せてなかった。ところがさすがにこれだけやってくると、だんだん言いたいことが言えるようになっていくものだと分かります。 毎回作るたびに新しい技術を覚える。死ぬまでまだ何年かあるだろうから、その間にだんだん上手になるかもしれない。それが、年をとっているってことのありがたみですかねえ。 実は僕、あの家には以来、一度も行っていないんですよ。でも、電車から見る田園や鈴鹿山系には、昔の感じが今なお残っている。だから、あのころに作った「西の辺の山脈(やまなみ)の前に雲しづみ高嶺(たかね)むらむらと立てる見ゆ夕べは」「山近に夕さぎ群れて金色(こんじき)に輝く雲の拡(ひろ)がりわたる」という感じは、今でも同じなんじゃないかと思って。 ◇ 新しいことに挑み続ける自分を「軽薄」と評しつつ「それが面白い」。瞳は若者のようだった。(増田愛子) ◇ おかい・たかし1928年、名古屋市生まれ。歌誌「未来」編集・発行人。83年「禁忌と好色」で迢空賞を受賞。93年から宮中歌会始選者。

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